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もっともここではそもそもが、名前など必要としない関係を築きたくて屯って居る連中ばかりなのだ、適当なニックにネームで呼び合ったり合わなかったりといった感じで。
そしてそれは店員である青年一にとっても同じだった。青年の立場では、本来ならそう簡単に素性も知れない人物がウェイター紛いのことまでして他の客に絡のむを、易々と見逃すべきではないのだろうが、謎めいた彼に客の方が馴染んでくれてしまった以上、何を遠慮する必要があるものか、と今では思っている。彼の方が年上そうであったことも、無意識に作用していたかもしれない。
それに万が一、何か事が起こったとしたら、それこそんなのは店に出てきたことのないオーナーのせいと擦り付けてやればいいだけのこと、そう心の底で責任転嫁していたというのもある。
だがそんな危惧すら抱く必要なく、今では店閉めまで一緒にする仲になっていた。
こうなってくるとまぁまず店に顔を出すことはないだろうオーナーが有り難く思えてくるのだから、人間とは現金なものだ。
今夜もお客は彼を中心に酒を堪能し、つまみに舌包みをくれ、気がつけば青年は音楽をせがまれDJ紛いのことまでさせられていた。
またある時はカウンターで、無理難題なカクテルをオーダーされ、イメージだけで作ってみるも、笑い者にされセンスの有無につっこみをくれられたりもしたが、他意のない、単なる遊びと常に割り切っている彼に、こてんぱにされるのはむしろ清々しいくらい楽しいことだった。
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