≪エピソード・3≫

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 食事の躾にだけは厳しい親だった。  朝食を食べ終え、寛ぎの紅茶に口を付けた瞬間、不意にそんなことを思い出した。  事業を興していた両親のおかげで、子供の頃は何かと近所の家に預けられることが多く、礼儀と愛想の経験値はそこで得たと自慢出来るほどだ。  その中でも一番に親に教え込まれていたこととして記憶と共に身に付いているのが、食事の仕方だった。  出されたものは残さない、綺麗に食べると言う基本はもちろん、明確なルールが存在している西洋料理のテーブルマナーはまだしも、和食においては箸の上げ下げから手の付ける順番、大皿料理の取り分け方などレクチャーされている内に、いつしか盛り付け方までが自分の得意分野になっていた。  元々が人見知りしない性格だったのだろうが、そんな特技もあってだろう、成長するにつれ人当たりのいい人と評価されるようになっていったのは、ごく自然な成り行きだった。その特技を最大限に活かせていたとあるショットバー時代を思い出し、彼は自然と微笑まずにいられなかった。  自分は今、一人じゃない。そう思いたいだけの居場所だったのかもしれないが。  ベッドルームで眠る彼女の背中が、軽く寝返りを打っていた。 *    *    *    *    *
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