Ep1: 女の子の味方①「ぶっ飛ばそう」

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Ep1: 女の子の味方①「ぶっ飛ばそう」

 秋って、恋仲が深まる季節だ。  炎のように燃え上がる夏の恋が落ち着き、穏やかさとセンチメンタルさとが顔を出して、二人の仲を深めていく。  まとっていた恋熱は内にへと移動し、その温度で愛の種を育ててゆく。  ……なんて他人が聞けば、ゲロゲロりんと砂を吐くほどにキザなことを考える少年が一人、席に座って窓の外を眺めていた。  二階の教室、外から秋風が滑り込む。少年は心地よくなり、その細い目をますます細くした。  御手洗満(みたらいみつる)、十七歳。ここ、桜塚高校の二年生である彼の心は穏やかだ。暑かった夏休みも終わり、残りの半年また、のんびり暮らそうと心に誓う。  笑うと糸目になる満の顔は、仏顔と言われるほどに優しく安穏と見えた。  いつも口元に微笑を浮かべているような表情、サラサラとした茶色めいた髪と色白の肌は、攻撃的な印象を他人に与えない。  饅頭を置き手を合わせ、拝みたくなるような少年である、と面と向かって彼に言ったのは誰だったか。 「みーちゃん!」  それは、今しがたバンッと満の机を両手で叩き、変なニックネームと共に現れた、黒髪の少女だった。     
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