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満はすぐそばにあったエスカレーターにそのまま乗り込んだ。ステップをひとつずらし、和葉も後ろに立つ。満は体を横に向けながら会話を続けた。
「さて、慎一くんにはどうやって接触しようか。いきなり俺から言われても、ピンとこないだろうし」
「梨花ちゃんに頼んで会わせてもらう?」
「んー、でも彼女がいる前だと、取り繕うとするんじゃないかな。話聞いてると、けっこう梨花ちゃんのことは好きみたいだし……」
言いながら和葉の方をチラリと見る。エスカレーターの段差一つ分低い和葉の向こう側に、もう一人の人物がいることに気がついた。
何てことはない普通の男。おそらく満たちよりやや年上の若い男は、スマホ片手に顔をうつむけている。
そう。どこにでもいる、どこでも見かける人の動作。でもそれを、満は見逃さなかった。
エスカレーターを上りきり二階につくと、男もそこで降りて違う方向へ向かった。満は和葉の背をやんわり押した。
「カズごめん、先行ってて」
「へ?」
「ちょっとトイレ」
足早で立ち去る男を満は追った。
スマホを操作しながらも、器用に人混みをすり抜ける男。狭い通路を曲がったので、肩をつかみ振り向かせた。
「お兄さん、待ってよ」
「うわ!」
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