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クレープ屋さんに着くと、何も知らない和葉がウィンドウ前で目を輝かせてサンプルを見ていた。近づく満を笑顔で迎える。
「みーちゃんは何にする? 私はイチゴバナナにするけど」
「んー、じゃあ同じやつ」
「トッピングは?」
「いらないや」
「そこは冒険しようよ! 私、イチゴソースにチョコチップ!」
まさか自分が被害に遭っていたとは知らない和葉は、無邪気にクレープを注文した。それを満はただ、目を細めて仏の顔で見つめていたのだった。
・ ・ ・
オレンジ染まる夕暮れの街中。安藤慎一は駅前のロータリーで彼女と待ち合わせをしていた。
タクシー乗り場から少し離れた駅の壁側で、背を預けてスマホゲームで暇つぶしをしている。
彼女の梨花とは、中学の卒業式で慎一から告白し付き合いをスタートさせた。まさかオッケーをもらえるとは思わなかった慎一は幸せだった。高校は違えど、楽しい男女交際が始まり、その幸せは二年生となった現在も続いている。傍目には順風満帆なお付き合い──だが。
(最近の梨花、元気ないよなぁ)
小さな悩みがまた慎一の頭をもたげた。
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