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明らかな恐喝だった。しかしなぜ、こんないかついヤクザ男がそこらにいる一学生から小金をせびるのか。ヤクザならヤクザらしく裏家業で稼いでろよ、と言いたくなるが、現状そんなことを訴える勇気などない。
「なな……なんで……」
歯がカチカチなりそうな慎一に、さらにヤクザ男は眉間を寄せて顔を近づけた。
「るせぇ! おら! 早くよぉ!」
男が何度か壁を蹴り上げて、暴行の予感を慎一に与える。一気に身近になった危険に、慎一は身をすくめた。
「わ、わわわ、わかったよぉっ」
情けない声を漏らし、慎一がポケットの財布を取り出そうとした──その時。
「慎一くん!」
「梨花!」
運悪く、彼女の梨花が現れてしまう。
ヤクザ男が狼で慎一がウサギなら、梨花はもっと小さい小鳥やリスだ。何の力にもなりはしない。
「来るな、逃げろ!」
思わず叫んだ慎一だが、すぐにヤクザ男が動き出す。
「何だよ、ネーチャンが相手してくれるのかぁ」
「え……?」
梨花は向かってくるヤクザ男に青ざめて、あろうことか足を竦めさせた。このままではやばい、と慎一の体は無意識に動いた。
「やめ……梨花に近寄るなぁー!」
「うぉ!」
ヤクザ男の巨体に背後から腰にタックルし、慎一は叫んだ。それはヤクザ男の足止めを成功させた。
「梨花、逃げろ!」
「でも慎一くん……!」
「バカ! 俺のことはいいから!」
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