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胸まである長い髪からは、整髪料なのか甘い香り。最近色気づいてきたな、と満は口をへの字にしたが、それでも仏頂面にならないのは仏面のせいである。
「どうしたの、カズ」
「聞いてよ! あの坂本先輩に今朝、挨拶されちゃった!」
「坂本……ああ、あの」
満の脳裏に、ぽやんとバスケットボール部キャプテンの爽やか男の顔が浮かぶ。
昔っからああいうタイプに弱いんだから、と満は嘆息した。
「ところでカズ、みーちゃんはやめてって言ったでしょ」
「何よ、みーちゃんこそカズはやめてよね。男の子みたいじゃん」
苗字も名前も「み」から始まる満に「それなら、みーちゃんだ」とニックネームをつけてくれたのが、目の前にいる林和葉という名の少女だった。中学の同級生だった彼女に、当時思春期の満はムッとして「それなら君はカズだね」と返した。
それ以来の腐れ縁であるこの二人。何のご縁か高校でも今年、同じクラスになってしまった。
「カズがやめたらやめるよ」
「もー、みーちゃんのケチ」
こんなやりとりも高校まで続くとは思わなかった、と憂う満の気持ちなぞ和葉は知らない。
傍目にはスレンダー美人な容姿の和葉。長身でキリッとした瞳とよく笑う表情は、少しだけ彼女を強気に見せて、内気な異性は萎縮してしまうだろう。
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