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キーパーがサッカーボールを蹴り上げると空中に大きく舞い上がり、それに向かって男子たちが駆けていく。4時間目は体育で、男子はサッカーの試合をしていた。
奏太がヘディングで受け、礼二へボールが渡った。「よっ」と右足で受け、そのまま足を大きく振り上げる。敵チームの二人が礼二に向かって走ってくるが、目線はゴールキーパーの左横だ。礼二はゴールめがけて思いっきり蹴った。しかしボールはゴールポストを飛び越えて校舎まで飛んでいってしまった。
「何やってんだよ、礼二ぃ」
「悪ぃ~。ボール取ってくるわ~」
礼二は同じチームの男子にめんごめんごと謝りながら、校舎へボールを取りに行った。
校舎の壁沿いにボールが落ちていたので、礼二は足でひょいと持ち上げると、ストンと自分の胸におさめた。
さて戻ろうと思ったその時。何か様子がおかしかった。いわゆる野生のカンというものだろう。自分のまわりで何かが起こる。何かが向かってくる。何が? 分からない。でも自分の奥底から「逃げろ逃げろ」と警告音が鳴り響いている。逃げるってどこへ? 分からない分からない。
「真鍋くんっっっっっ!!!!!!」
聞き慣れた声が脳に突き刺さったと思った瞬間、ガシャーーーーーーンと派手な音を立てて窓ガラスが地面に叩きつけられた。
礼二の見えている世界がスローモーションになった。激しく飛び散るガラスの破片、ふわりと舞い上がる黒髪、まるで波のように体が押される感覚。
気が付くと、礼二は地面に倒れていた。と同時に体に重みを感じた。リンクが礼二の体の上に覆いかぶさっていたからだ。礼二はつま先の方を見ると、四角の窓ガラスが粉々になっており、窓枠の部分だけが残されていた。
リンクがむくりと顔を上げる。
「良かった……。真鍋くんが無事で……」
「月城、お前……」
リンクの顔は林檎のように赤くなっており額に汗をかいていた。リンクは笑顔のまま、礼二の胸に顔を埋めた。
「月城! おいしっかりしろ! 月城っ!!!」
ガラスの衝撃音を聞きつけて校庭からクラスメイトたちが駆け寄ってくる。校舎の窓からも児童たちが顔を出し、何があったんだと騒ぎ始めていた。
礼二は周りの様子には目もくれず、何度も何度もリンクの名前を呼び続けた。
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