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放課後。窓からオレンジ色の光が教室に差し込んでいる。
礼二は静まり返った教室に一人、頬杖をつきながら5年1組と書かれた学級日誌を眺めていた。
「ったく中山のヤツ! 日直の仕事忘れて帰りやがって!」
礼二はダルそうにペラペラとページをめくる。とあるページで手が止まった。日直の欄に月城リンクと書かれてある。丸っこくて可愛らしい字だ。
ふいにリンクの笑顔が礼二の頭に浮かんだ。サラサラの黒髪、真っ白い肌、すらっとした手足、同学年の女子よりも大人びた雰囲気。
「げこげこぽんぽん、げこげこぽん。げこげこぽんぽん、げこげこぽん」
礼二は、誰かを占うときに唱えるリンクの言葉を無意識に呟いていた。
「げこげこぽ……」
「真鍋くん」
「ぎゃっ!」
目の前に突然、リンクが姿を現した。礼二は体勢を崩して椅子から転げ落ちそうになった。
「そ、そんな幽霊が出たみたいに驚かないで」
「なっなっなんでお前がここにいるんだよ?」
「美和ちゃんがね、うっかり日直の仕事忘れちゃってなんか戻りづらいって。だから私が代わりに……」
「なんだよそれ、自分で戻ってこいっつーの」
「真鍋くんに怒られるのが嫌だったみたい。許してあげて」
リンクは両手を合わせて首を少し傾けた。黒髪がさらさらと肩から流れ落ちる。
「ふん。別にいいけど」
「ホント? 良かった」
リンクはそう言うと、礼二の前の席に腰掛けた。
席の前後で向かい合う礼二とリンク。頭一つ分リンクの方が背が高い。
その差がリンクの存在そのものを遠くに感じられ、礼二は胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
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