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結局如月はピアノも弾かずに帰って行った。
一体何しに学校に来たんだ。
“先生の事が好きです!”
ふと大和の言葉が甦る。
駆け引きなんて考えていない、真っ直ぐで純粋な気持ち。
如月が言うように、向き合って応えたつもりだ。
「大切にしたいと思う人がいる」
そう言って断った。
大和は「わかりました」と気丈にも笑みを見せた。
あの日から有村はここに来ていない。
有村が来なければ、接点などなくなる。
受験が終われば、それで終わりの関係。
そんな一言で片付けられたら良かったのだけれど。
何気なく言った言葉は、有村にとって拒絶の言葉に聞こえたのかもしれない。
そう気付いたのは最後に見せた寂しそうな笑顔。
あんな表情をされるとは思っていなかったから、さすがに戸惑うというか後悔の念が拭えなかった。
目を背け続けるのも限界か。
さすがに向き合うしかないだろう。
「(……コーヒーでも買ってくるか……)」
パソコンを閉じ、 何度目かわからないため息をつきながら立ち上がった。
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