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「せんせー!」
準備室の扉を開けると、先生が私達を見て目を丸くした。
「今日も音楽室借りまーす」
「え?あ、あぁ」
気まずさを感じているのは私だけ。
だから声も掛けられずに、ただぺこりと頭を下げた。
準備室を出て音楽室に入る。
音楽室の匂いがなんだか懐かしい。
花音がピアノに近付いて鍵盤蓋を開けた。
「何やろうか?」
トートバッグからピアノの楽譜を何冊か取り出して見せられる。
「用意してきたの?」
電話口でそんな話題は一切出てなかったのに。
「もちろーん。あ、これなんてどう?」
花音の選曲にしては珍しく静かな曲……しかも洋楽だった。
「花音のピアノに合わなくない?」
差し出された楽譜の表紙には“The rose”の文字。
「失礼な、ちゃんとしっとり弾けるし」
音域も高くないし、喉への負担もないから大丈夫だろう。
私は花音から楽譜を受け取った。
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