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ドアノブが回る音がして、びくりと肩が震えた。
「あれ、有村いたのか?」
姿を見せたのは驚いた顔をした先生。
「あ、あの、如月さんが担任の先生に用があって、でもまだ使わせて欲しくて……えと、邪魔なら帰りますから……」
思わずしどろもどろになってしまう。
挙動不審な私を見て、先生がふっと笑った。
「別に追い出しに来たわけじゃないよ。さっきドアが開く音がしたから、帰ったと思っただけ」
プレーヤーの前に立ち、CDを入れて音量を確認する。
教科書を手にしているから、次の授業で使うのだろう。
「……あ、あの先生」
「ん?」
「私、ここも思い出なんです」
振り返って私を見つめる。
「だからその……卒業するまでは音楽室に来てもいいですか?」
そうは言っても、卒業式まで日数はあまりない。
けれど、そのわずかな時間でいいから先生と過ごしたい。
話したいって、笑い合えたらいいって思うから。
「……駄目だなんて言った覚えはないぞ」
先生の優しい眼差し。
ほっとしたのと同時に、心に温かいものが広がった。
「……ありがとうございます……」
先生の一言に一喜一憂してしまう。
誰かを好きになるのって苦しい事もあるけれど、それ以上に穏やかな気持ちになれる。
想いを伝えたら、この笑顔は見れなくなってしまうのだろうか。
「(……今は……いいや)」
嫌なことを考えるより、今はこの時間を大切にしよう。
「先生は普段どんな曲を弾くんですか?」
「俺?」
花音が戻って来るまで、私は先生の話に耳を傾けた。
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