教師と生徒の別離

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ピアノの音が止んで音楽室の扉を開けた。 先生が私に気付いて笑顔を見せる。 「卒業おめでとう」 「ありがとうございます」 椅子から立ち上がって譜面を閉じる。 「来ると思った」 「音楽室が一番思い入れがありますから」 歩み寄って先生を見上げた。 「私……先生と出会えて良かったです」 どうしても伝えたかった感謝の気持ち。 「私の歌声を認めてくれたから自信が持てました。先生の後押しがなかったら音大だって目指せなかった」 私が変われたのは先生がいたから。 「だから……本当にありがとうございます」 先生の顔が綻ぶ。 「教師冥利につきるよ」 そっと音楽の教科書に触れながら先生が告げる。 「でも俺、今月いっぱいで退職するから」
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