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「ま、有村は卒業したし俺も教師を辞めるからそれも関係なくなるんだよな」
「……え……?」
先生を見ると、優しく笑みを浮かべている。
「元教師と元生徒には変わりはないけど……ピアノ講師なら……これから会っていく人にはそういう目で見られなくていいだろ?」
これから……?
ピアノ講師なら……?
先生はこれからも私と会ってくれるの?
先生のこと、好きでいていいの?
様々な思いが駆け巡る。
その中で1つの疑問が思い浮かんだ。
「私がいなければ……先生は先生を辞めずにいられたんですか……?」
「先に理由は言っただろ。それに俺自身が決めた事だ。有村が気に病む必要は全くない」
「でも……」
「けじめくらいつけさせろ。有村の事を生徒として見られなくなった俺へのな」
申し訳なく思う気持ちと、想いを受け入れてくれたという嬉しい気持ちが入り交じって涙が溢れた。
「そんなに泣くなって」
「す、すみません……」
「あとこれ」
「?」
渡されたメモ用紙には電話番号とメールアドレス。
「これ……先生の……?」
「いつでもいいから連絡して。色々片付いたら迎えに行くから」
いつもと同じ優しい笑顔。
この笑顔を見られるの、最後じゃないんだ。
これから先も、一緒にいられるんだ。
「はい……!」
きっと涙でぐちゃぐちゃの顔をしてる。
それでも私は、これ以上ないくらいの笑顔で返事をした。
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