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クラウルは泣きそうな顔でこちらを見ている。虐めたつもりはないのだが、結果はそうなったかもしれない。忙しく事後処理をしていたのだから、責められるいわれはない。
責めてしまったのは、多少寂しかったからかもしれない。
息をついて、近づいて、そっと首に腕を回してキスをした。こうして触れるのも久しぶり。
「……んっ」
角度を変えて深く絡めるようなキスにゾクゾクする。クラウルの手が腰と頭の後ろを捉えて、かき混ぜるように髪を弄る。大きく少しゴツい手に触れられるだけで、心地よい感じがしている。
唇が離れ、互いを濡れた瞳で見つめる。吸い込まれるような黒い瞳が、真っ直ぐにこちらを見ている。
「明日、仕事だろ?」
「では、無理のない程度にしてください」
「苦行しろと?」
「手加減しろと言っているのですが」
苦行ってなんだ。思わずツッコみたくなる。
困ったように微笑む瞳は、本当は困っていない。優しく優しく緩まっていって、力が抜けていく。気の抜けたこの人の顔を見ているのは……欲情に濡れた瞳を見ているのは自分だけ。それはゼロスの、一つの優越感だった。
「何なら明日、俺が休みを取ってやる」
「恥ずかしすぎるので遠慮いたします」
明らかに情事によると分かる休みなんて冗談じゃない。
それに、体は辛くても心は満たされる。だから、平気だ。
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