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Tが部屋を指差す。……ほんとだ。伸びた白髪を後ろで結んだ老婆がこっちに背を向けた状態で窓際に立っている。
……2人とも無言になり、しばらく微動だにしない老婆の背中を見続けた。数分経って老婆は動きだし、車の中からは見えなくなった。私達は目を見合わせた。
「……わかる。言いたい事、わかるよ。」
「うん、気持ち悪いよな。」
言い知れぬ不自然さを感じざるを得なかった。カーテンの無い部屋で、午前3時半に煌々と電気をつけ、何をするでもなく窓際にボーッと立っている老婆なんて、どう考えても妙だ。
それ以来、仕事帰りにその部屋を見ると必ず背を向けた老婆が窓際に立っていて、老婆が立ち去るのを見届けてから家の中に入る、というのがルーティーンになった。
ある日の夕方。起きて目覚めの一服をしようとしたところ、タバコが一本も無い。コンビニに買いに行こうと家を出ると、目の前のマンションにパトカーが数台停まっていて、ご近所さん達が集まってザワついている。
その中に、ちっちゃい頃から可愛がってくれてるオバチャンが居たので、駆け寄って聞いてみた。
「どうしたの?何の騒ぎ?」
「あそこ、一人暮らしのおばあさんが住んでたらしいんだけど、孤独死してたんだって。」
オバチャンが、あの部屋を指差す。
「もしかして、3階の角部屋?」
「そうそう。あの、一つだけカーテンが無い。」
老婆が亡くなった……?
なぜだか、信じられない、というような気持ちに襲われる。
「死因とか聞いた?」
「死後随分経っちゃってて、詳しく調べないとわからないって聞いたわよ。」
よく考えると、昨日今日亡くなったなら“孤独死”なんて言わないはず。でも、私はその日の午前3時半に窓際に立つ老婆の姿を見ている。
「え、いつ亡くなったの?」
「……これから調べるらしいけど、最低でも数ヶ月は経過してるんじゃないかって。」
「は!?数ヶ月!?」
見事に総毛立つ。
Tが最初に3階角部屋の話をする遥か前に、老婆は亡くなっていることになる。
「家賃は引き落としだったから支払われてたらしいんだけど、なにせ、お年寄りの一人暮らしじゃない?この真冬に電気とガスが止まってしばらくしても復旧されてないことを大家さんが知って、それきっかけで発見されたみたい。」
「……ちょっと待って、電気止められてたの?」
「うん、止められてたって。それがどうかしたの?」
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