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思わずぎゅ、と目を瞑ったものの、唇に当たった温もりは、柔らかなものとは、違って、ツルリとして、ゴワついたもの。
恐る恐る目を開けてみれば、そこに見えるのは、白いものと、赤い線。
「な、ん」
「須藤の答案」
「な………?!!!」
先生の声が、グッ、と近づいた、と思った、次の瞬間、鼻と唇に当てられていた答案用紙が、温かさとともに、パリ、と小さな音を立てる。
一瞬の、出来事、だったけれど。
「先生、今、キ」
「してません」
「したよね?」
「してない」
「してくれた!」
「あれはノーカン」
「嘘ぉ?!」
グッ、と先生の胸元を掴みながら言えば、「嘘じゃないし」と先生が悪戯っ子のような笑顔で笑う。
「一週間後を、お楽しみに。千依ちゃん」
ピン、と先生が、私のオデコを軽く弾く。全然、痛みは無いのに、オデコが、熱い。
「オレを本気にさせたんだ。責任とれよ?」
そう言って笑った先生は、「好きです」という言葉が、出てこなくなるくらい、誰よりも格好よくて。
一週間後、私はまた、この場所で、もう一度、彼との恋に、落とされた。
完
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