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今日は町の夏祭りだ。
町の名前にもなっているわりと大きな神社にはたくさんの出店が並び、すぐ隣にある川沿いにはずらりと提灯が下げられる。夜には打ち上げ花火が空に咲く。
一年で一番、町が賑わう日だ。毎年夏祭りの日が来ると、夏が来たことを実感する。
そんな日だというのに、私は一人、学校から家へと向かって歩いていた。
午前中だけだとはいえ、わざわざ夏休み中のこんな暑い日に夏期講習を実施するだなんて、どうかしていると思う。
汗は拭っても拭っても流れるし、湿気を含んだ空気は重たく、ジメジメと纏わりつくような熱気が不快感を倍増させる。
夏祭りが始まるころには、もう少し涼しくなっていると良いのだけれど、と私は思った。
誰かと夏祭りに行く予定はないけれど、毎年一応神社に行って、出店で綿菓子とりんご飴を買うのが、私の小さな楽しみだった。花火は家の窓からでも見えるので、冷房の効いた涼しい部屋で、買ってきた甘いものを食べながらのんびりと見ることにしている。
「ただいま」
家に帰りつくなりそう言うと、リビングの方からおかえり、と声が帰って来た。
リビングの扉を開けると、冷えた空気がすうっと流れ出てきた。火照った肌に冷気が心地いい。
「お疲れ様。びっしょりだね。シャワー浴びてきたら?」
「そうする」
私が鞄を下ろすと、部屋に置きなさい、と言いながら母は冷蔵庫から麦茶を出してきてくれた。
「お母さん、もう少ししたら祭りの手伝いに行ってくるから」
「わかった。暑いから気を付けてね」
「菜子も、ちゃんと水分取りなさいよ。今年も、一人で綿菓子買いに行くの?」
母は話しながらグラスに麦茶を注いで差し出してくれた。それにお礼を言って受け取ってから、私はそのつもりだと母に伝えた。
「そう。なるべく明るい時間に来なさいね。心配だから」
「うん。そうするね」
私はそう答えてから、受け取った麦茶を一気に飲み干した。
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