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夕方になって、陽が沈んでしまってから、私は家を出た。
空は空色が少し夕日に染まった、やわらかな色をしている。
神社に近付くにつれ、賑やかな人の声と音楽が聞こえてくる。そのわりには道を歩いているのは私一人で、なんとなく寂しい気持ちになった。
それにしても、陽が沈んでも暑いものは暑いなと思いながら、私は黙々と歩いていた。歩調は自然とゆったりしたものになる。
そのまま、信号もない小さな交差点に差し掛かった時、私は右側から歩いてきた誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
相手を確認する前に、私の口からは謝罪の言葉が出てきた。
完全に自分の不注意だった。見通しの良い交差点で、右側から歩いてくる人がいたなら、事前に見えていたはずだった。
私にぶつかって転んでいたのは、小学生くらいの女の子だった。
「大丈夫? 怪我はない?」
私は彼女が立ち上がるのに手を貸しながら言った。
半袖に丈の短いズボンをはいていた彼女には、幸い擦り傷の一つもなかった。
「本当にごめんね? 大丈夫? 待ち合わせをしているなら送っていこうか?」
私がそう言うと、彼女は大人びた顔で笑った。
「大丈夫。お祭りには一人で行くの。お姉さんは?」
「私も一人だけど……」
私は言いながら不思議に思った。小学生の女の子が、一人で夏祭りに行くだろうか。友達と一緒ではないなら、親が付き添っていそうなものだ。
すると、女の子はそんな私の心の内を見透かしたように続けた。
「少し、見に行くだけって約束なの。すぐに帰るからって私がわがままを言ったのよ。そしたら、少しだけだよって許してくれたの」
そう説明されてしまうと、私はそれ以上のことを女の子に聞くことができなかった。彼女が一人で出かけているのは、何か理由があってのことなのだろう。
その代わりに、私は一つ提案をした。
「じゃあ、私とお祭りに行かない?」
そう言うと、女の子の表情がパァッと明るくなった。
「いいの!?」
「うん。私も、夏祭りには少し買い物をしに行くだけなの。良かったら一緒に行こう。帰りも送っていってあげる」
女の子は満面の笑みを浮かべて、ありがとうと言ってくれた。
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