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「私、さやかっていうの」
「さやかちゃんか。可愛い名前だね」
私と女の子――さやかちゃんは、手を繋いで神社までの道を歩いていた。
人懐こい子で、歩き始めてすぐに、さやかちゃんの方から手を繋ぎたいと言ってきた。小さくて柔らかい子どもの手を、私は少し緊張しながら優しく握った。
さやかちゃんは大人びた雰囲気の子だが、まだ小学生の三、四年生だろう。手を繋いだ時に浮かべた嬉しそうな表情は、年相応に幼くて可愛かった。
肩に着かない長さで切り揃えられた髪が、歩くテンポに合わせて揺れる。
歩幅の小さなさやかちゃんに合わせて、私も意識してゆっくりとした歩調にした。
「お姉さんは何を買いに行くの?」
さやかちゃんが私の方をチラリと見ながら言った。
「私はね、綿菓子とりんご飴を買いに行こうと思って」
「ふうん。お姉さん、甘いものが好きなんだね」
「そうなの。さやかちゃんは何が好きなの?」
「私はね……私も、りんご飴が好きだなあ。真っ赤なのが可愛くて、お父さんにおねだりして買ってもらってた」
さやかちゃんは少し悩んでから、そう言って笑った。
やがて、神社が見えてきた。川へ続く道へは提灯がぶら下がっている。
すると、神社の鳥居の少し手前で、さやかちゃんは突然私の手を引っ張った。
「どうしたの?」
足を止めると、さやかちゃんは少し困った顔で言った。
「ごめんなさい。ここから先へは行けないの」
私はびっくりして、さやかちゃんの正面に視線を合わせてしゃがんだ。
「行けないって、どうして? 一緒に居るから、少し入ってみたら?」
「ダメなの。ここから先へは、入れない」
さやかちゃんの意志は固く、私は一緒に神社に入るのは諦めた。
「じゃあ、少しここで待っててくれる? 急いで買い物してくるから」
「わかった。ここで待ってるね」
私は一度鳥居の前でさやかちゃんと別れ、一人鳥居をくぐった。
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