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人混みの中から外に出ると、暑さも賑やかさも半分になったような気がした。
町の夏祭りなだけあって、中ではちらほらと知り合いに出会った。そのたびに足を止めて短い会話をしているうちに、時間はどんどん過ぎてゆく。
結局、買い物を終えて神社を出たのは、空の端に夕日の赤が追いやられた頃だった。辺りもすっかり薄暗くなっている。
鳥居の外、さやかちゃんと別れた場所へ行くと、そこに彼女の姿はなかった。
待ちくたびれて帰ってしまったのだろうか。それとも、あんまり遅いから中に入って私を探しているなんてことは……と考えていると、後ろから声をかけられた。
「お姉さん」
振り返ると、そこにはさやかちゃんがいた。
「さやかちゃん。待たせてごめんね。大丈夫だった?」
「うん。少し川の方を見てきたの。驚かせてごめんなさい」
「私の方こそ、遅くなってごめんね。これ、良かったらどうぞ」
私は出店で貰ったビニール袋から、小さなりんご飴を出してさやかちゃんに差し出した。
「りんご飴! ……でも、良いの?」
遠慮するさやかちゃんに、私は笑いかけた。
「良いのよ。二人で食べたほうがおいしいかな、と思って買ってきたの」
私がそう言うと、さやかちゃんは目をキラキラさせて、りんご飴を受け取ってくれた。
買ってきて良かった、と思っていると、川の方からドンドン、と低い音が聞こえてきた。
そろそろ、花火の始まる時間だ。
「さやかちゃん、どうする? 少し花火を見ていく?」
嬉しそうにりんご飴を見ているさやかちゃんに、私は聞いた。
すると、さやかちゃんは私と目を合わせて笑った。
「お姉さん。りんご飴のお礼に、私の秘密の場所を教えてあげる」
そう言うと、さやかちゃんは私の手を引っ張って歩き出した。
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