水面の花火

5/7
前へ
/7ページ
次へ
 人混みの中から外に出ると、暑さも賑やかさも半分になったような気がした。  町の夏祭りなだけあって、中ではちらほらと知り合いに出会った。そのたびに足を止めて短い会話をしているうちに、時間はどんどん過ぎてゆく。  結局、買い物を終えて神社を出たのは、空の端に夕日の赤が追いやられた頃だった。辺りもすっかり薄暗くなっている。  鳥居の外、さやかちゃんと別れた場所へ行くと、そこに彼女の姿はなかった。  待ちくたびれて帰ってしまったのだろうか。それとも、あんまり遅いから中に入って私を探しているなんてことは……と考えていると、後ろから声をかけられた。  「お姉さん」  振り返ると、そこにはさやかちゃんがいた。  「さやかちゃん。待たせてごめんね。大丈夫だった?」 「うん。少し川の方を見てきたの。驚かせてごめんなさい」 「私の方こそ、遅くなってごめんね。これ、良かったらどうぞ」  私は出店で貰ったビニール袋から、小さなりんご飴を出してさやかちゃんに差し出した。  「りんご飴! ……でも、良いの?」  遠慮するさやかちゃんに、私は笑いかけた。  「良いのよ。二人で食べたほうがおいしいかな、と思って買ってきたの」  私がそう言うと、さやかちゃんは目をキラキラさせて、りんご飴を受け取ってくれた。  買ってきて良かった、と思っていると、川の方からドンドン、と低い音が聞こえてきた。  そろそろ、花火の始まる時間だ。  「さやかちゃん、どうする? 少し花火を見ていく?」  嬉しそうにりんご飴を見ているさやかちゃんに、私は聞いた。  すると、さやかちゃんは私と目を合わせて笑った。  「お姉さん。りんご飴のお礼に、私の秘密の場所を教えてあげる」  そう言うと、さやかちゃんは私の手を引っ張って歩き出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加