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歩いている間に、辺りはすっかり夜になった。
ぽつんぽつんと街灯が光る道をさやかちゃんに手を引かれながら歩いていく。
さやかちゃんがどこを目指しているのか分かった私は、最初は彼女を止めようとしたのだが、少しだけだから大丈夫、と言ってどんどん歩いていく彼女を見て、私がしっかり見ていれば良いか、という気持ちになっていた。
「着いた。ここよ」
さやかちゃんが案内してくれたのは、近付かないようにと言われている、町のはずれの池だった。
業者の手が入ったばかりなのか、草は刈られ、周りには緑の匂いが満ちている。
その業者が閉め忘れていったのか、さやかちゃんは柵の扉を開け、中に入っていこうとした。
「待って」
私は慌ててさやかちゃんの手を握った。
「ここは危ない場所なのよ。入っちゃダメなの」
「大丈夫よ。今は池の形が良く見えているもの。それに、入ったらそれ以上池には近付かないって約束する」
お願い、と言われて、私は少し考えた。
「……じゃあ、中に居る間は私と手を繋いでいて。本当に、少しだけだよ」
「うん!」
さやかちゃんと私は、柵の中に入って、内側から柵に寄りかかった。
それと同時に、空に花が咲いた。少し遅れて、ドォン、と低音が響く。
「綺麗に見えるね」
私は正直に言った。家で見るより障害物が少ないし、人混みでもないから静かに花火を見られる。
さやかちゃんは、そうでしょう、と得意げに笑ってから、言った。
「お姉さん。池も見て」
池? と思って、上向けていた視線を下に向ける。すると、凪いだ水面にパッと鮮やかな花が咲いて散った。
空と池と、同じタイミングで同じ花が、咲いては消えていく。緩く風が吹いて水面が揺らげば、花もより儚げに震えた。
「すごいでしょ。私のお気に入りなの」
さやかちゃんはそう言って笑った。
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