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バリバリキュイーン!
ヘッドホンから豪快なギターサウンドがして俺は跳び起きた。
「うわあ……やってしまった」
心地よい眠りの底から引きずり出され、思わず舌打ちをする。またアンプにギターを繋いだまま眠ってしまったようだ。急激な覚醒に、心臓が激しく脈打っている。
弦を弾いているのはもちろん俺の手ではない。
彼女だ。
三日前綺麗に切ってやった爪をきらりと見せつけ、ワイルドに掻き鳴らしている。
毎日のように見慣れていながらも、俺はうっとりとその美貌に見惚れた。
絹のように艶やかな毛並み、小生意気そうに少しつり上がった目に輝く、ヘーゼルの瞳。黒と白の完璧なコントラスト。
我が愛猫、ノルウェージャンフォレストキャットの雌のクレメンタイン。
俺の最愛の女だ。
もう二歳になる。去年避妊手術を済ませてから妙にいたずらっ子になり、油断して床に物を放置していると、勝手にピックやらヘアゴムやら(俺はこの業界では珍しくないように長髪だが、家では一つ結びにしている)隙間の闇に隠しては俺を閉口させるが、それでも俺の愛すべき姫であることには変わりない。
クレメンタインも俺を愛している。遠征でどうしても家を空けなければならず(告白すると、俺はなるべくスカンディナビアの外に出たくないのだ。クレメンタインと離れ離れになるなんて)、ユヴァスキュラの方にいる姉が代わりに世話をしに二週間以上居座ろうと(姉は俺の部屋が汚すぎるから掃除すると言い張るが、猫は地形が変わると混乱するから片付けるなと、毎度毎度平行線の議論を戦わせる)俺のことを忘れず、儀式をやってくれる。
それというのは、ふさふさとした立派な尻尾を、二回転しながらゆっくりと俺の足に巻き付け、額をごしごしと擦り付ける。そして尾を離すと、俺の足をそれでぴしゃんと叩く。俺以外の人物には絶対にやらない。姉でさえ見たことがないという。まさしく、愛のあかしではないか。
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