この国はアルコールによって栄えた国である。

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 その日は一日中、ギブソン・エギュベルのことを考えていた。そもそも自分は一日考え事をするようなことは無いし、それが誰かのことなんて何年ぶりだ。それも奴が夢に出てきたせいだ。  自分に父親という存在が居るとしたら、奴がそれに値する。そもそも、気がついたら自分は奴とここに住んでいた。物心つくとかではなく、奴と暮らす前の記憶がまるで無い。幼少期のことなど勿論だし、それがあったことすらも定かではない。自分が何処で生まれたのかも知らない、ヴァネット・シドル国内すらも危うい。  一番古い記憶を溯ってみても、朝起きて、夕暮れまで奴と農作業をして、飯を食って寝たという、今とほぼ変わらない日常しか浮かんでこなかった。  それではギブソンがいつ出て行ったのかを思い出してみよう。  あれはおそらく五年と十二ヶ月前ぐらいだったと思う。ギブソンは夕食の際、古い友人に会いに行くという言葉を発した。何となく自分は察したが、一応戻ってくるのかを問う。ギブソンは首を横に振った。奴が出て行ったのはその二日後だ。  今思うとギブソンはここに長居をする気はなかったんじゃないかと考える。奴が居たときは、ほぼ自分に何かしらの勉 強をさせていたのだ。マゲイの作り方、それの加工の仕方。読み書きと自分の常識の大半は奴から学び、残りは奴が残した大量の書物だ。まるで自分を一人でも生きていけるように教育したかのように思えてくる。  それがあながち間違いではないと思うのも納得のいく話で、自分のような異形の者は街に出ることは不可能だ。そしてギブソンにはギブソンの人生がある。一生、こんな山奥で暮らすのも無理な話なのだ。 日が西へと傾いてきた。自分は樽を担いで小屋へと向かった。最近は雨が少ないので、マゲイにやる水が井戸だけでは足りない。鳥を狩るついでとはいえ、川まで行くのはなかなか骨だ。今日だけで五往復はしたが、明日はもう少し多く汲んでこようか。そんな日常的なことを考えていたら、自分の目の前にとんだ非日常があらわれた。
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