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はじめての勇気
私には秘密のちからある。終わりを予期するもので、今のところ的中率100パーセントだ。
たとえば世の中には『死期の近い人のまわりに黒いもやが視える』って人もいるみたいだけれど、私の場合は『この人(もしくは動物など)が何日後に終わる』というのが映像として頭に流れこんでくる。
なのでこれまで、おじいちゃんやおばあちゃんが病気で亡くなったときも、インコのピピコがのら猫に連れ去られたときも、テレビに映った有名人も、近所のおじさんも、親戚のおばさんも……私は事前にそれを知っていた。
両親も妹も、そのことには気づいていない。むかし、おばあちゃんにこっそり打ちあけたとき「絶対に誰にも話してはいけない」と言われたからだ。
優しくて、怒ったりしたことのなかったおばあちゃんが、たった一度きりみせた怖い顔と真剣な声。そのせいで、なにがあっても言いつけを守ってきたし、おかげで不名誉な扱いをうけることなく平穏な生活を送ってこられた。おばあちゃんには感謝しかない。
そんな私に、あした人類が滅亡するビジョンが視えたのは、高校2年のある晴れた初夏の日。数学の授業中のことだった。
世界は平和そのもので、終焉の気配なんて微塵も感じさせない午後。眠気と格闘するクラスメイトたちの後頭部ごしに黒板を見ていたら、なんの前触れもなくそれが脳裏に映しだされた。
あっ、とこぼれそうになった声を懸命に押しこめる。かわりに、冷たい汗があちこちからふき出た。ひどい悪寒におそわれたように体を小刻みに震わせ、白昼夢を反芻する。
人類は滅亡する。あした。確実に――。
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