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 夏祭りにいったら金魚すくいではなく星すくいというのがあった。  その屋台の店主ときたら三日月で、調子のいい声で、かの失われし千年王国の最後の女王が渇望したという代物なのだとまことしやかに言ってみせる。  つねづね三日月というものはお調子者の上にほら吹きなところがあるのだが、じろりと睨んでみてもこちらの視線に気付いたのか、  ――さあさあどうぞどうぞ、  なんてむしろ呼ばれてしまうくらいで。こう言われてしまうとため息をつかざるを得ないのだが、そこにちょうど通りかかったのは保安官のバッヂをつけたほうき星で、その姿を認めた三日月ときたら顔を青ざめて逃げていってしまった。  ――まったく、星の卵をこんな風にぞんざいに扱うとは良くないねえ。  ほうき星保安官の言葉に驚いて尋ねてみると、確かにこれは星の卵なのだという。その代わり充分な環境で育てないとすぐに死んでしまうのだとか。  ――アンタはいい人みたいだから、これは礼代わりと言うことで試してみるといい。気になっていたみたいだからね。  そう言って卵を一つわたされた。卵と言ってもまったく見た目は琥珀糖と変わりないようなもので、ただ違うとすれば小さく光を宿していること。  それがたしかに気になると言えば気になっていたので、家に持って帰って小さな器に水を入れ、琥珀糖もどきの卵をそっといれてみる。すると卵は何度か不思議に瞬いたかと思うと器からパリン! と音がして、器からは光が消えてしまった。あの琥珀糖のような小さな卵も。  それから数日して晴れた夜空を見ていると、きらきらと降り注ぐような煌めきを目の端に感じた。  その輝きは卵の瞬きとそっくり同じだった。
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