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お姉さんと初めて出会ったのは私がまだ4年生の時。マンションのゴミ捨て場での時だった。とても疲れた顔をしていて、お母さんが声を掛ける程ボロボロに見えた。お姉さんは最近隣に引っ越して来た人だけど、私が顔を見たのはその時が初めて。
とても良い出会いとは呼べない。むしろ最悪に近いそんな顔を見て。けどその眼は、声は、仕草は。私にとってとても大人で、カッコよく見えてしまった。私がもっと早く大人になりたいと思わせてしまった。
「……おはようございます?」
「あ、お、おはよう、ございましゅ!!ます!!」
「……行ってらっしゃい?」
「い、いい、いってきます!!!」
「ああ、はい。不審者に気を付けてね」
「ありがとうございま~~~~す!!!」
何気ない挨拶の筈、むしろお姉さんは不審者に見られてもしょうがないぐらいなのに……とんでもないぐらいの緊張感で胸が爆発しそうだったのだ。
もう理屈とかそんなのどうでも良くて、髪を掻き上げた仕草が。腰を落として挨拶して合わさった視線が、蛇に睨まれたカエルの様に私を硬直させた。だから脱兎の如く逃げたんだけど、お姉さんは後で「本当に人生が終わったと思った」と豪語している。そんな事をしたら私がちゃんと弁解してあげるからね、大丈夫だからね?
私はその日から、お姉さんを遠目で見る様になって、時々は声を掛ける間柄だった。ゴキンジョツキアイ?ってお母さんは良い事だと言ってたけど。私は何となくそれだけじゃ足りないんじゃないかって思っていた。
そして1年、日増しに酷くなっていくパンダみたいに黒くなる眼が見てられなくて、どうにかしないとって思っていた時の事である。
「……あれ?……あれぇ……?」
いつもランドセルに付けていた家鍵が見つからなくて、マンションのロックドアを通れない事態に陥ってしまったのだ。お母さんから教えられていた大家さんの番号も押したんだけど、留守みたいで応えてくれなくて。
真夏の夕方だったからとっても暑くて、中でも外でも変わらなくて、とにかくマンション前で持っていた水筒をちょっとずつちょっとずつ飲んで耐えていた。
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