竜と月

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 萩原(はぎわら)敬太(けいた)は色白で、あまり目立つことのない生徒だった。彼が教室のどこにいるのか、クラスメートは把握していない。机で本を読んでいることもあれば、ちょっと仲のいい友だちと会話をしていることもある。誰にも注目されず、けれど、いつもどこか近くにいる存在……それはまるで、昼間のうすい青空に隠れる白い月のようで……  敬太が図書室へ入るのを涼花は見ていた。  何年か前にはやった本と、イラストの載ったラノベ風の小説、あと一冊は、参考書かなにかだった。  ちょうど一週間。小学校を卒業してから図書室を利用したことのなかった涼花は、決められた曜日に借りたものを携えて特定の空間へ入っていく敬太の後ろ姿が、なんとなくふしぎで、すこしだけ際立って見えた。  「いちめんのなのはな」というフレーズで有名な詩を小学校の国語で習ったけれど、ちょっとだけ背の高い、ちょっとだけ鮮やかな色をした涼花にとっては、周りはみんないちようで、自分だけがすこし伸びてしまった頭で周囲をながめているような、そんな感覚がしていた。涼花をしたう生徒は多いけれど、みんなどこか一目置いているようで、なんとなく恐れられているような気もしていた。  菜の花の背くらべ……こっちから見るとたいしたことはないのだけど、他の生徒にとってはやっぱり違うのだろうと感じていた。目立てば目立つほど、自分がちっぽけな存在にすら思えた。  そんな野原のまんなかで、さわやかな風はさらさらと、誰もいない大きな空へ涼花の視線を誘う。――
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