Ⅱ.過去の残照

4/28
前へ
/141ページ
次へ
 けれど、大主の意志は変わらなかった。  やむを得ずフェルドは折衷案を出す。  それが、かつて闇の領域で左将軍(さしょうぐん)の位に就いていた翡影の同行である。  経験も実績も申し分ないこの武人なら、ライカの補佐として申し分ない。  もっともな言い分に、大主は首を縦に振る。  かくして、百名からなる探索部隊は、光と闇の境界に派遣されたのである。 「そろそろ戻りましょう。この辺りは境界線が曖昧で、あまり進むと闇の領域に入ってしまいます」  表面上は平和が保たれている今、無駄ないざこざは起こしたくない。  そう言う翡影に、ライカは一つうなずいた。  大主の命を受けている状況で、余計な闘いを起こすのは得策ではないと、経験の浅い彼女でもさすがに理解できる。  今一度、虚魔の跡と言われる荒れ地に目をやってから、ライカは陣へと戻っていく翡影の後を追った。      *  様子がおかしい。  先に察知したのは、翡影の方だった。  陣からは、煙が上っている。  だが、炊事の煙にしては大きすぎる。  急ぎ陣へと駆け戻ろうとするライカを制すると、翡影は耳をそばだてる。  風向きが変わると同時に聞こえてきた微かな音に、翡影の表情は鋭くなった。 「……やられた」  その一言で、ライカは状況を理解した。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加