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けれど、大主の意志は変わらなかった。
やむを得ずフェルドは折衷案を出す。
それが、かつて闇の領域で左将軍の位に就いていた翡影の同行である。
経験も実績も申し分ないこの武人なら、ライカの補佐として申し分ない。
もっともな言い分に、大主は首を縦に振る。
かくして、百名からなる探索部隊は、光と闇の境界に派遣されたのである。
「そろそろ戻りましょう。この辺りは境界線が曖昧で、あまり進むと闇の領域に入ってしまいます」
表面上は平和が保たれている今、無駄ないざこざは起こしたくない。
そう言う翡影に、ライカは一つうなずいた。
大主の命を受けている状況で、余計な闘いを起こすのは得策ではないと、経験の浅い彼女でもさすがに理解できる。
今一度、虚魔の跡と言われる荒れ地に目をやってから、ライカは陣へと戻っていく翡影の後を追った。
*
様子がおかしい。
先に察知したのは、翡影の方だった。
陣からは、煙が上っている。
だが、炊事の煙にしては大きすぎる。
急ぎ陣へと駆け戻ろうとするライカを制すると、翡影は耳をそばだてる。
風向きが変わると同時に聞こえてきた微かな音に、翡影の表情は鋭くなった。
「……やられた」
その一言で、ライカは状況を理解した。
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