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陣は、闇の領域からの襲撃を受けている。
皆を助けなければ、と走り出そうとするライカの腕を、翡影は咄嗟に掴んでいた。
「ちょ、どうして止めるんです? 早く行かないとみんなが……」
けれど、翡影は首を左右に振った。
「ここからだと、相手の数がわかりません。下手をすれば、我々も含めて全滅するだけです」
そう。
今回の目的は、あくまでも大主の弟の探索であって、戦闘ではない。
ここはやり過ごし、一旦大主の元へ帰還するべきだ、そうライカに進言する。
翡影にとっても、苦渋の決断だった。
だが、ライカは翡影の手を振り払った。
予想外のライカの行動に、翡影は目を丸くする。
その間にもライカは剣を手に走り出していた。
「ライカ殿! お待ちください! 」
大声でライカの背に向け呼びかけるが、彼女は止まろうとしない。
そうこうする内に、ライカの姿は、陣の中へ消えていく。
まずいことになった。
翡影は被っていたフードを跳ね上げ、自らも剣を抜きライカの後を追おうとする。
その時だった。
翡影の脇を、一尋の風が吹き抜ける。
その風に乗って、かすかな声が聞こえた。
──将軍、ここは私に一任を──
「……な? 」
思いもよらぬことに、翡影は周囲を見回す。
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