5人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、当然彼の他に人の姿は見当たらない。
一瞬、幻聴だったのかとも考えたが、それにしてはあまりにも鮮明だった。
何より気になったのは、声の主が彼を『将軍』と呼んだことだ。
確かに彼は闇の領域では左将軍の地位に就いていたが、こちらでは客人待遇の一武人に過ぎない。
彼のことを今現在将軍と呼ぶのは、二人だけ。
一人は大主の補佐を勤める、かつての烈将軍フェルド。
いま一人は、ある時忽然と彼らの前から姿を消した闇の巫女。
フェルドがわざわざこのような所に出向くとは考えにくい。
だとすると……。
湧き上がる不安を抑えつつ、翡影は煙の立ち上る本陣を見つめていた。
*
ライカが本陣にたどり着いたとき、予想に違わずそのあちらこちらで戦闘が繰り広げられていた。
数ではこちらの方がやや有利。
しかし、不意な攻撃を受けたため、動揺は隠せない。
その分を差し引いて、互角かやや不利な状況のようだった。
なんとかして、収めなければ。
その一心で、ライカはあらん限りの声で叫んでいた。
「双方、剣を収めなさい! 我らの目的は、争いではない! 」
けれど、乱戦の様相を呈しているこの状況では、当然のことながらその声は届かない。
「剣を収め……! 」
最初のコメントを投稿しよう!