Ⅱ.過去の残照

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 だが、当然彼の他に人の姿は見当たらない。  一瞬、幻聴だったのかとも考えたが、それにしてはあまりにも鮮明だった。  何より気になったのは、声の主が彼を『将軍』と呼んだことだ。  確かに彼は闇の領域では左将軍の地位に就いていたが、こちらでは客人待遇の一武人に過ぎない。  彼のことを今現在将軍と呼ぶのは、二人だけ。  一人は大主の補佐を勤める、かつての烈将軍フェルド。  いま一人は、ある時忽然と彼らの前から姿を消した闇の巫女。  フェルドがわざわざこのような所に出向くとは考えにくい。  だとすると……。  湧き上がる不安を抑えつつ、翡影は煙の立ち上る本陣を見つめていた。      *  ライカが本陣にたどり着いたとき、予想に違わずそのあちらこちらで戦闘が繰り広げられていた。  数ではこちらの方がやや有利。  しかし、不意な攻撃を受けたため、動揺は隠せない。  その分を差し引いて、互角かやや不利な状況のようだった。  なんとかして、収めなければ。  その一心で、ライカはあらん限りの声で叫んでいた。 「双方、剣を収めなさい! 我らの目的は、争いではない! 」  けれど、乱戦の様相を呈しているこの状況では、当然のことながらその声は届かない。 「剣を収め……! 」
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