Ⅱ.過去の残照

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「霧……? いえ、自分は何も……」  けれど、そう言う翡影はどこか歯切れが悪い。  何かを知っているのかもしれない、そう直感したライカは、さらに言葉を投げかける。 「逃げて行った人達は、闇の巫女の呪いとか、アウロラが何とか言ってたんです。何かご存知ではないですが? 」  ライカの言葉に、翡影は神妙な表情を浮かべ、重い吐息を漏らす。  そしてじっとこちらを見つめてくるライカに、一言告げた。 「わかりました。付いて来て下さい。闇の領域に入りますので、武器をお忘れなく」      *  翡影に連れて来られたのは、陣からやや闇の領域に入った所にある小高い丘の上だった。  何の変哲もないその場所に、ライカは戸惑いつつも周囲を見回す。 「翡影さん、ここは? 」  一方の翡影は、ある一点をじっと見つめている。  何事かとそちらを覗き込むと、真新しい花が数本置かれていた。 「あくまでも伝承です。古の時代大主と闇の王が戦った時の話ですが」  その話であれば、さすがのライカでも知っている。  かつて大主は、共にこの世界を支える存在であった闇の王と戦った。  結果闇の王は倒れ、調和者はいずこへかと姿を消し、世界に再び安定が訪れた。  誰でも聞いたことのある、昔語りである。
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