5人が本棚に入れています
本棚に追加
「霧……? いえ、自分は何も……」
けれど、そう言う翡影はどこか歯切れが悪い。
何かを知っているのかもしれない、そう直感したライカは、さらに言葉を投げかける。
「逃げて行った人達は、闇の巫女の呪いとか、アウロラが何とか言ってたんです。何かご存知ではないですが? 」
ライカの言葉に、翡影は神妙な表情を浮かべ、重い吐息を漏らす。
そしてじっとこちらを見つめてくるライカに、一言告げた。
「わかりました。付いて来て下さい。闇の領域に入りますので、武器をお忘れなく」
*
翡影に連れて来られたのは、陣からやや闇の領域に入った所にある小高い丘の上だった。
何の変哲もないその場所に、ライカは戸惑いつつも周囲を見回す。
「翡影さん、ここは? 」
一方の翡影は、ある一点をじっと見つめている。
何事かとそちらを覗き込むと、真新しい花が数本置かれていた。
「あくまでも伝承です。古の時代大主と闇の王が戦った時の話ですが」
その話であれば、さすがのライカでも知っている。
かつて大主は、共にこの世界を支える存在であった闇の王と戦った。
結果闇の王は倒れ、調和者はいずこへかと姿を消し、世界に再び安定が訪れた。
誰でも聞いたことのある、昔語りである。
最初のコメントを投稿しよう!