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月も日もないこの世界では、どれくらい時が流れたのかわからない。
加えて、自分がどこに向かって歩いてるのかさえ定かではない。
似たような風景が延々と続く中、果たして前に進んでいるのか、後戻りしているのか、はたまた同じところを周回しているのかすらもわからない。
せめて、何か目的になる物がないのか。
一度足を止め、大きく息をつく。
そして、カイは改めて周囲を見回す。
辺りはしんと静まり返り、その静けさは耳に痛いくらいだった。
「……え? 」
けれど。
その静けさの中、何かが聞こえた。
カイはその長く尖った耳をそばだてる。
かすかではあるが、確かに聞こえてくるそれは、幼い少女の泣き声のようだった。
こんなところに、なぜ。
だが、その疑問は一瞬にして解けた。
狭間に姿を消した調和者アルタミラは、少女の姿のまま幾星霜を生きながらえているのである。
「……アルタミラ殿? 」
カイは呼びかけるが、無論返答はない。
この泣き声は、どこから聞こえてくるのか。
カイは強い意志を持ってその声を追う。
と、どうだろう。
それまで何もなかったはずの空間に、崩れかけた神殿が現れた。
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