翡翠(カワセミ)

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翡翠(カワセミ)

「この近所の公園の池で翡翠(かわせみ)が撮れるのよね」  電話越しに緊急事態だと聞き、急いで隣町まで自電車を飛ばした僕に先輩はそう言った。  夏休み初日から汗だくで不満を口にする僕を背に彼女は耳を塞ぐ仕草をしながら、 「あーあー聞こえませ~ん。夏休み中の課外活動は部員全員強制参加で~す」  部員全員と言ってもそれは僕ら二人だけ。  廃部寸前だった去年の春、校門前で彼女に捕まった僕が強制的に入部させられただけの話である。  それ以来、毎週末彼女に付き合わされて県内各地を回っている訳だが、今日はどうやら翡翠探しらしい。 「何で緊急事態なんて大げさな事言うんですか!」 「うーん君もそろそろ来てくれなくなるかな~と思ってさ」  どうも前例があるらしい。  彼女は思い立ったら口より先に体が動くタイプで、過去に写真部に籍を置いていた人たちもこうやって毎日付き合わされていたのだろう。 「もう一年もやってるんだから今更辞めませんよ!」 「本当かなぁ~? まぁ良いや、着いたよ!」     
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