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ジューンブライド
カラン、カランと教会の鐘が鳴る。
花嫁が、姉が、六月の花嫁として祝福される。
教会で式が終わり、私は一人の男に近付いた。
彼は、姉の部活動の先輩で結婚式に招待されるほど親しく、6ペンス銀貨を贈って寄越すくらい嫌みな男だった。
「先輩?」
人混みから離れうつむき加減の彼に声をかけた。
「…なんだ?」
高笑いでもしたい気分で「姉さん綺麗だったでしょ?」
「…ああ」
沈黙が降りて。
「…何が言いたい?」
+++
ーーあの日に戻る。
初夏のじっとりとしたあの日。
体調不良の姉を見舞って来た彼が、眠っていた姉にキスをしたあの日。
姉の慕う彼と大好きな姉のために用意した、水だしのアールグレイはグラスが結露してしずくが流れていた。
私の心臓は傷付いて血を流した。
+++
あれから、夏が来るたびに覚える胸の痛み。
冷たいアールグレイは飲まなくなった。
「貴方にだけは渡したくなかった」
男は酷く悲しげに笑い
「もう、叶ったじゃないか」と言った。
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