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今年の暑さはとんでもないねと、夕食の席で両親が話す。それを具現化するように数日後、さらに数日後、近所の人達の訃報が立て続けにもたらされた。でも俺にはその死因が暑させいとは思えなくなっていた。
夏休みに入って以来、出かけることもなく家にいる。そんな俺だから気がついた。
近所の誰かが亡くなる少し前、必ずあの鳴き方の蝉の声がする。いや、単に似たような鳴き方をしている蝉がいるということじゃない。最初に向かいの家の壁にいたあの蝉が、ずっとこの近所で鳴き続けているんだ。
蝉の寿命を考えたらそんなことはあり得ない。でも俺にはあの蝉の鳴き方だけが他のどんな蝉とも違って聞こえるんだ。あいつがずっと生き続けて、近所の人達を死なせているように考えられてならないんだ。
でもこんなことを話したとして、誰が信じてくれるだろう。気のせいだ、思い込みが激しすぎると笑われるだけだ。
だから必死に聞き流そうとしていた。その蝉の声が今朝、俺の部屋の窓の真下から聞こえてきた。
覗き込んでも姿は見えない。でもあの独特の鳴き声がいつもより鮮明に意識に響く。
全身のたまらないだるさはその声を耳にした瞬間から始まった。
これまで不具合など何一つ感じていなかったのに、全身が重く、一昨日より昨日、昨日より今日と、日増しに具合が悪くなっていくのが自分で判る。
両親に体調不良を訴え、医者に行ったけれど夏風邪と診断され、おそらく効かないだろう薬を渡されて俺は家に戻るしかなかった。
ジーワジワジワ。
あの鳴き方そのままに、日ごとにじわじわと体が何かに蝕まれていく。
ジーワジワジワ。
命が削られていくのが判る。
ジーワジワジワ。ジーワジワジワ…。
今日も元気に鳴き続けるあの蝉の声は、俺の命が失われる瞬間まで意識に響き続けるのだろう。
蝉の声…完
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