第3話

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第3話

 その日はママが車で迎えに来てくれて、私はまっすぐ家に連れて帰られる事になってしまった。本当は、圭の練習を見に行きたかったんだけど。  お兄ちゃんは男子バスケ部の新しいコーチになったのだという。教室ではホームルームの後、なにも話す事が出来なかった。他の女の子達に取り囲まれて、あれこれと質問攻めになっていたお兄ちゃん。  私を覚えてくれているか訊きたかったのに、圭ったらやっぱりママに連絡したらしい。私が保健室のお世話になった日は、こうやって圭が告げ口をしてママが迎えに来る。はっきり言って圭の方がママより心配性で、私を管理しようとする。大丈夫だと言っても聞いてもらえずに、私は圭に呼ばれたママの車で家へと強制送還されてしまう。  今日もそう。圭が「もう来るぞ。校門まで送るから」と言って、私は仕方なく教室をあとにする事になる。 「……残念ね鈴菜。積もる話もあるっていうのに。でも任せて、あたし色々訊いておいてあげるから。鈴菜の事覚えてるか、あれからどこに引っ越したのか。由紀ちゃんだったっけ? あの子の事も気になるわよね。あとやっぱり……彼女はいるのか! ちゃんとリサーチしとくから、安心して!」  3人並んで階段を降りながら、佑果はそんな事を言って私をなぐさめてくれる。思い出の『お兄ちゃん』の登場に、なんだかやけに佑果も嬉しそう。そうよね、佑果や圭にとっては、バスケの楽しさを教えてくれた恩人。私にとってはそれ以上の存在だという事も、佑果は分かって喜んでくれているんだわ。 「うん、ありがとう! でも私なんだか変な気分。あんなに会いたかったお兄ちゃんなのに……先生なんてね。これから毎日会えるんだ! 圭も佑果も同じクラスで担任の先生はお兄ちゃん。なんだか私、すっごくわくわくしちゃう……!」  階段を降りながら、私はこみ上げる笑いを隠せない。今日はなんて良い日。そしてこの素敵な日は1年間も続くのね。嬉しくて、足取りもとっても軽いわ。  でもそんなうきうきの私に水をさすようにして圭は言う。私のカバンを持って、少し意地悪な口調。
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