第2話

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「あ、佐伯(さえき)さん、もう大丈夫? 始業式は終わったから、もうちょっとゆっくり寝ていてもいいのよ? あとで岸田(きしだ)くんと近藤(こんどう)さんが迎えに来るって言ってたから」  仕切りのカーテンを開けて顔をのぞかせた私に、保健の先生がデスクからにっこり微笑む。若い女の先生。とても綺麗で、優しくて、素敵な人。  私は首を横に振って、「大丈夫です」と言う。早くクラスに帰りたい。先生は誰なのか、席順がどうなったか気になる。委員も今日決めるはずだったし。  去年はなにも言えないまま風紀委員にされてしまって、1年間大変だった。だって風紀委員は問題がある生徒に注意しなければならない。ただでさえコミュ障の私が、問題のある生徒になにを注意できるって言うの。   だから急いで帰って、今年はちゃんと嫌だって言わなくちゃ。先生に「お世話になりました」と言って、私は急いで保健室をあとにする。  がらっ、とその扉を開けると、廊下の向こうから歩いてくる大きな大きなふたり組が見える。人混みの廊下を、飛び出した圭と佑果の頭。遠くから見てもスタイルのいいふたり。ふたりとも9等身で小さな顔。しかも誰もが認める美男美女で……歩いているだけで絵になる、私の幼なじみ。 「あ、鈴菜! もう大丈夫? 教室3階になっちゃったのー。鈴菜生活できるかな。圭に抱っこで連れて上がってもらいなよ。さっき倒れたとこで、3階はきついでしょ?」  私の顔を見つけて、手を振って言うのは佑果。ショートカットの大きな瞳が笑う。やだ、大きな声。周りの人達が笑ってる。『抱っこ』なんて、そんなの、子供じゃないんだから……。 「……だ、大丈夫だよ。ちょっと休んだらずいぶん楽になったから。それより先生は? 席は? 委員は? 早く教室に帰りたい。全部、もう決まったの……?」  慌ててふたりに駆け寄り私は訊く。……あ、走ったらまた痛い。でも平気な顔をして。もう本当に嫌な心臓。私は普通になりたいだけなのに。 「……決まったよ。なにもかも。担任、バスケの新しいコーチでさ。俺ぐらい背があるの。鈴菜絶対びっくりする。……ほら、痛いんだろ」  優しい顔をしてそう言って、圭の長い腕が私の背中に添えられる。そのまま顔が寄ってきて、太ももにもう片方の腕が触ったと思ったら……。 「……もう、圭、大丈夫だよ! 歩けるから! 降ろして! みんな、見てる……!」
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