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「はーい皆さん! これが佐伯鈴菜ですー。これで『岸田家』が揃いました! この鈴菜は心臓が弱いの! だからあんまりびっくりさせないでやってね。あと圭をタクシーに使うから、うらやましい人は圭に独自に頼んでみて下さい! 体重60キロまでなら無料ですよー!」
「……ばっかお前、なんつー妄言を吐くんだこの女! 60キロとか本気で無理だろ、米俵サイズだぞそれ……!」
「きゃー、じゃああたしお願いします!」
「私もっ! 50ちょっとですっ!」
「俺60ないから抱っこしてくれよ」
「おいタクシートイレ連れてけ、65キロだ!」
……とたんに教室は大騒ぎの大笑い。人気者がふたり揃った2年3組は、きっと1年こうなんだろうな。
詰め寄るクラスメイトにたじたじの圭をほったらかして、佑果が私を席に連れて行ってくれる。一番後ろの窓ぎわ。佑果は前の席、圭がとなりの席だという。
「ずるして代わってもらっちゃったの。って言っても、圭が一番前の席だったのよ。デカくて邪魔でしょ? だから、鈴菜のとなりになったわけ。鈴菜はあたしの後ろで大丈夫? 邪魔だったら、あたしが後ろに代わるけど」
「あ、う、ううん、大丈夫。うれしい、ふたりの間。隠れてうまくサボれそう。ぼんやりしてても、きっとバレないもん」
「やだ鈴菜、言うようになったわね。サボってる鈴菜なんて見た記憶がないわ。あ、そうそう、先生もすごいの。めっちゃでっかくて。ホントに圭ぐらいあるわ。あれだけデカけりゃ、教室の一番後ろまで一目瞭然……」
その時前の扉が開いて、大きな男の人が頭を下げながら教室に入って来る。レールに頭がぶつかりそうなのね。あの仕草は圭もする。あの人が先生? 若い、背の高い男の先生――。
「帰りのホームルーム始めるぞ。……あ、佐伯鈴菜、帰ってきたんだな。俺、持田遼。担任。よろしくな」
その先生はよく通る声で一番後ろの席の私に言う。私は目が合ったその先生に会釈をして、目線を前の席の佑果に戻そうとして……。
――止まる。頭がフリーズして。それから、その先生をもう一度見やって。
「ほら、ホームルームするって言ってんだろが! ほら岸田! 席に帰れお前! なんの行列が出来てんだよ! 散れ散れお前ら!」
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