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「何もかも、やっと終わった。気が抜けたよ。鈴菜がいてくれたおかげだ。俺の身体を流れる血液は、きっとやっと綺麗に澄んだ……」
お寺をあとに歩きながら、遼はそんな事を言った。その節ばった大きな手は、私の手とつながっている。
「そうね。亡くなる時には少し苦しそうだったけど、今日のお父さんはきっとあの遺影どおりに笑っていたわ。だからもう大丈夫。遼はすべてを乗り越えた。私も、ほっとしたわ」
お葬式には、北海道からお母さんと由紀ちゃんが来てくれた。ママも来て、でもたった5人のお葬式。遼のお母さんとママは手をとりあって泣いていた。私も、由紀ちゃんとたくさん話をして。
でも今日は私と遼はふたりきり。これでいいの。ちゃんと区切りをつけたかった。私と遼のふたりで。私は昨日20歳になった。これで、すべてハードルは乗り越えたはずだから。
「鈴菜が、ハタチか。改めて信じられないな。時間がかかった。俺がすべてを片付けて……鈴菜が大人になるまで」
感慨深げに遼が言う。日曜の住宅街。5月の風が吹き抜ける往来で、歩きながら、私を40センチの上空から見下ろして。
出会いは『お兄ちゃん』だった。それから『先生』になって。『遼』と呼ぶまでには随分時間がかかった。9歳だった私は20歳になった。11年、私はこの人を想い続けた。11年間、ずっとこの人だけを見つめていたわ。
優しい人がたくさんいた。遼と同じ背をした幼なじみ。その圭を好きだった佑香。広海くん。うちのママもそう。みんなが優しくて、私はその優しさに甘えて、こうして大人になって……。
今目の前には、ただの『遼』がいる。 私はその遼に、こんな事を言うの。
「そう。私は『大人』。昨日ママにも言われたの。『これからは自分の事はすべて自分で責任を持ちなさい。ママは、もう何もうるさいことは言わないわ』……。ねえ、だから遼」
「ん?」
「今日は私、遼の部屋にお泊りするの。いいでしょう? だって私は、もう『大人』になったんだもん」
「……えっ! ……いや、それは。それはなんか、なんと言うか……」
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