エピローグ

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エピローグ

 私は大学を卒業して司書になった。司書教諭。高校で勤務している。  小説家になりたくて大学時代は投稿を繰り返したけど、そんなに甘い世界じゃない。4年かけてもデビューは出来なくて、それでも時間を見つけてはお話を書き、大きな賞に応募する生活を続けている。  遼は相変わらず高校教師。私達の母校にずっと勤めている。一切転勤がないのは、バスケ部の監督として実績を残しているからだろう。  私立の学校からオファーがあるようだけど、関心はないみたい。公立高校をインターハイで優勝させる事に意味があるとかで、いつまでたっても青春が終わらないみたいに生徒達とじゃれ合っている。もう31になったのに、気分はまるで高校生なんだから困ってしまう。バスケをして、寝て食べて『先生』をして。  バレンタインには大量のチョコレートを持って帰る。全部私が食べてしまうんだけど、それは内緒。手作りしてくれた女の子の気持ちに報いるために、ホワイトデーには私が手作りしたクッキーを配るの。佑果なんかは「……恐ろしい。あんたは恐ろしい女ね。コーチ、浮気できないなあ。呪われそう」なんてひどい事を言う。私は笑って言い返してやるの。 「ほっといたらお返しなんて考えもつかない人なんだからしょうがないわ。大体佑果にも『支給』してあげてるでしょ? 飲食店で働いてるくせにクッキーのひとつも焼けないなんて、広海くんも苦労するわよ」 「ああ、それを言われると耳が痛い!」とカウンターの向こうで佑果は言う。横で広海くんも、「そうだそうだ鈴菜ちゃん、もっと言ってやって!」なんて同調して。  ふたりはこの夏お店を始めた。ランチも食べれるレストランバー。ひとり可愛い女の子も雇って、3人で。オーナー兼シェフは広海くん。学生時代からバイトで貯めたお金を全部つぎ込んで、24歳の大挑戦、なんて言っていたっけ。  ランチの時間帯が終わると、佑果は母校である大学の女子バスケ部に顔を出す。コーチとしてそこで指導をする。バレンタインにはなぜか遼と同じぐらいのチョコレートに囲まれる佑果。だからお返しは私が焼いてあげてるのよ。『呪われそう』だなんて、失礼しちゃうわ。  とっても素敵なこのお店。きっと長くやっていける。オープンの時、私達はみんなでお祝いに駆けつけた。私も遼も、今日子ちゃんも美琴ちゃんも、もちろん、圭も。
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