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結衣の通う学校は、三葉学園という都内の名門女子校の1つだ。結衣は小学生の頃からこの学校に通っていた。だから、物心ついた頃には既に結衣はその学校の生徒だった。学校も結衣にとっては初めから決まっていた初期設定の場所に過ぎない。
「ごきげんよう。」
セーラー服に紺のスカーフ、フレア型のスカートの制服を着た生徒が一斉に学校に集まってくる。結衣はその光景をどこか鼻白んで見ている。もちろん結衣もその光景の一部であり、小学生から通っているという意味では慣れ親しんだものであるはずなのだけれど。
「ごきげんよう。」
珠子が結衣に声をかける。仲の良い友人でも校内の挨拶は”ごきげんよう”とする決まりがある。筧珠子とは小学校時代からの付き合いだ。ずっとこの学校に通っている2人にとって”ごきげんよう”の挨拶はごく自然なものになっている。
珠子はいつもの丸眼鏡におさげ髪を結っていた。薄い色の肌に血管が透けて見える。小さな作りの顔が可愛らしい。
お嬢様とは珠子のような女の子を言うのだと、結衣は納得していた。実際、珠子の家は名門の華道家であり、珠子は名実ともにお嬢様なのだ。珠子はその境遇を自然に受け入れているように見える。
2人は並んで歩いて中等部の校舎に向かった。白を基調としたシンプルな校舎で、靴を履いたまま中に入るかたちになっている。靴だけは学校指定のものではなかったので、ローファーという決まりはあるものの、皆それぞれ思い思いの靴を履いている。
「今日、部活休みなんだ。遊びに行かない?」
珠子が結衣に言う。珠子は中学に入ってから、サッカー部に入っていた。手を怪我したら華道に障ると珠子の親は猛反対したらしいが、珠子は譲らなかった。彼女は顔に似合わずタフなところがある。そして、サッカーを始めてみると、珠子は予想したよりもずっと良いプレーヤーになった。ポジションはミッドフィールダーだった。体格は小柄だが、高いボールポゼッションの技術と巧みなパスで相手を翻弄する。校舎の3階にある美術室の窓から見ると、珠子はフィールド全体が見えていることがよく分かる。それに、サッカーをする時にだけ見る眼鏡を外した顔が最高に素敵だと結衣は思う。
「うん、良いよ。私の方は、行っても行かなくてもだから。」
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