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そして奈央とは店を出て別れた。マンションまではここから歩いて20分とやや遠いけどこの時期は楽しみがある。
それはお花見。桜が綺麗な道を歩けること。
今がちょうど満開で青い空をピンクの花で覆いつくしている。
斜面が芝生になっているところに腰を下ろす。
「綺麗だなあ。やっぱり春が一番いいかも」
桜の花びらを見ながら家族について考えてみようか?
こんなに綺麗な景色なら考えもいい方向へ向かってくれるかもしれない。
そっと目を閉じて我が家を思い浮かべる。
朝、お母さんが慌ただしくご飯の用意をしている。
『悠里も少しは手伝って!』
『んー、気が向かないかもー』
『あはは、悠里さんは手伝い苦手ですか?』
新しい父親は私を悠里さん、とさんづけで呼ぶ。
そして自分のこともまだ『お父さん』と呼ばずに『陸さん』でいいよと言ってくれているから私も陸さんも敬語で話す。
陸さんは分かっている。私に心の準備期間が必要なこと。だから籍だってまだ入れてない。
「なんか、大人に甘やかされてる」
ポツリと呟くと。私の座っている場所から1人分空けたところに誰かが座った。
自然に顔を向けるとそこに座ったのはごく普通のデニムと白いTシャツを着てる人なんだけど髪をグレーに染めて、瞳が青みがかっている。
普通なのかそうでないのか分からない男の人。大学生くらいに見える。
「よかった。ちゃんと生きてる子だった。
目を閉じて動かないからマネキンか死んじゃった子かと思った」
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