おとしもの

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 「ええ。揃いましたね。たまに戻って来ちゃうんですよ。未練があるんでしょうね」  もどってきたということは、成仏出来なかったたましいなんでしょう。私は気の毒だと思いましたが、彼女はどこか嬉しそうでした。  「なんだか嬉しそうですね?」  少し(とが)めるような口調になってしまいました。  「サンダルは死者のたましいを運ぶ船」  という彼女の話を、どこか本当のように思ってしまったからでしょう。  「ええ。嬉しいです。二つ揃えば、どこへでも歩いて行けるから。」  彼女はそのサンダルにスッと足を差し入れると、サヨナラも言わずに、ウキウキとした足取りで行ってしまいました。  「独りで行くのは、さみしいんです」  と言い残して。  あのサンダル、彼女が乗ってきた船だったんでしょうね。そう思いませんか?  それにしても、サンダルを履いた彼女は、誰を迎えに行ったんでしょうねえ……。    
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