0人が本棚に入れています
本棚に追加
明は個人的に幽霊と話をして
「この子は平気だよ。普通の幽霊だ」
と言った。普通の、と付いたのは悪霊もいるってことだ。
私はまだ会ったことがないけど、人に害を与えた幽霊が悪霊に分類される。
「じゃあお母さんに伝言を伝えてもいいの?」
私が明に聞くと、明はうーんと唸りながら
「できれば止めとけって言いたいけどさ…。明日香は止めないだろ?」
諦めたような表情でこちらを見る。うんと頷くと明は乱暴に私の頭を撫で、
「危険なことは絶対にしないこと。いいな?」
と言って許可してくれた。男の子に事情を説明し、お母さんの居場所を聞く。
「お母さんはこのお家にいるよ。ずっと…悲しんでるの…お姉さん、お母さんを助けて…」
男の子はふわりと、姿を消した。私はびびりながらもインターフォンを押す。
ピーンポーンと間の抜ける音と共にパタパタと足音がする。
がらがらっと鳴りながらドアが開き、中から出てきたのは男の子の幽霊と少し顔が似ている女の子だった。
髪は伸び、服も薄汚れ、つかれた顔をした女の子。
「どちら様ですか?」
かすれた声はか細く、聞き取れないと思うほどだ。
「こんにちは。私は火理町高校二年生の鎖辺 明日香。お母さんはいますか?」
女の子は怪訝な顔をしながらふらふらと案内してくれた。
案内された部屋の中にいるのは憔悴しきった女性。
私が入ってきたのにも気づかず、着ている和服にシワがよるのも気にせず、ソファーに横たわっていた。
「お母様。私は火理町高校の鎖辺 明日香です。息子さんのことでお伝えしたいことが…」
私が話をしようとしたら彼女は飛び起き鬼のような顔で
「息子がなに!!あのこは…あのこのことはもう放っといて!!」
甲高い声で叫ぶ。
女の子も諦めた顔で目を反らす。
何があったのか分からないが、あの目は話が通じなさそうだと判断し、出直すことにした。
「では、また明日伺います。あなた様にお伝えするまで…何度でも」
私はそう言い残し、部屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!