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小さな、鳥の鳴き声で目を覚ます。
お母さんの布団に入ってからは目覚めることはなく、怖い夢を見なかった。
「おはよう…おかあさん」
お母さんの方を向き、挨拶をする。布団が暖かくて、起き上がる気にならない。明るくなった室内には今までと違った雰囲気を私に感じさせていた。
なんだかわからない恐怖感。
まるで、目に見えない怪物がそこにいるかのようだ。
「お…おかあさん…!」
助けを求めてお母さんに抱きつく。
その腕からは、冷たく、滑りとした感触が伝わってきた。
「なに…これ…!」
布団から出した手には冷たい真っ赤な液体がついていた。
「い…いやぁ…」
布団からずれ落ちる。背中から落ち、痛みを感じながら後ずさりする。
明るくなったから気付いた。
おかあさんの布団は、赤い染みができており、斑模様を描いていた。
布団を剥ぐ勇気は、なかった。
それからの事はよく覚えていない。
今、覚えているのはお葬式のとき。
さわさわと大人たちは私を誰が引き取るかで揉めているようだった。喋ってもいいのだろうかと思いながら大人たちを眺める。お母さんとお父さんが亡くなって、私はどうなるかとぼんやり考えていた。
二人の両親、おじいちゃんとおばあちゃんはずっと前に亡くなっていると聞いていた。二人に兄弟がいたらその人に引き取られるのだろうなと結論が出る頃には大人たちも話がまとまっていた。
「明日香ちゃん…辛いだろうけど頑張ってね…」
見たことのない人が話しかけてきた。叔母さん…なのかな?
「何を頑張るの?あすかは誰と暮らすのですか?」
私が聞くとおばさんは私から目をそらし、
「あのね…あなたには言いにくいのだけど…だれも、引き取りたがらなかったの…」
と言った。誰も?ならわたしは…どこにいくのだろう…。おばさんは続けて
「それでね…唯一引き取りたいって言ったのが…男の人なの。まだ独身でね、ちゃんと稼いでいるしあなたさえよければ…彼のもとに住んでみたらと思ったのよ…どうかしら?」
男の人…か…。どんな人なんだろう…。
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