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とりあえず、男性の名前はわかった。次は…用件かな?
「えっと…どんなご用件ですか?」
敬語ができているか心配だったが、彼はそんなことは気にしていないようで
「あぁ、お葬式の時に、叔母さんから話は聞いたと思うけど、僕が君を引き取るつもりの人なんだ」
と言って微笑んだ。あまり手入れをされていない髪の間から見える藍色の瞳は、本当に自分の親戚なのかと疑うほどにきれいだ。
「あの方ですか。まぁ、お入りください。玄関でする話でもないでしょう」
私が家の中に入るように促すと彼は小さな笑みを浮かべたまま、お邪魔します。と言って家に入った。
陽介と名乗った彼はキョロキョロと見回しながら私の後についてきた。リビングで待っているようお願いし、お茶をいれるためにキッチンへ向かう。
茶葉は、どこにあるのだろう。自分用にお茶をいれたことなんてないし、お母さんがいつも、いつの間にか出してくれていた。
「弥生姉さんは、いつも乾麺の入れている棚の奥に入れていたよ」
陽介さんの声だ。リビングで待っているよう言ったはずなのに、私の後を追ったようだ。
「陽介…さん?乾麺ならシンクの上の棚です。あすかは手が届かないので、取ってもらえますか?」
シンクや調理台ですら踏み台がないと届かないのだ。上側の棚なんて脚立がないと無理だ。
陽介さんは軽々と手を伸ばし、棚の奥から茶葉を探しだしてくれた。
「ありがとうございます。では、お茶をいれるので…」
待っていてください。と言おうとした。
陽介さんの言葉に阻まれた。
「いや、よかったらだけどさ、僕がいれるよ。明日香ちゃんはまだ子供だから危ないよ」
陽介さんはそう言って、慣れた手つきでヤカンを取りだし、コンロで沸かし出した。どうして、茶葉やヤカンの場所がわかったのだろう。
弥生という名前は、お母さんのものだ。
お母さんは、いつも同じ場所に置いているのだろうか。
私は、陽介さんがお茶を準備する背中を見守りながら思っていた。
電気ケトルがあるから、危なくないんだけどなぁ…。
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