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エピローグ
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それなりに無難な生徒ではあったと思います。
容姿も勉学も交友も中の下、冴えるところはないけれどまた汚点もあまりない。強いて言うなら地味で、人より臆病で、この黒縁メガネが恐らく私という存在を象徴していたのでしょう。
楽しいことなど何もない。
この世のすべて、どうしてか、いつなんどきだって刑務所の中で課せられた強制労働のような気がしていました。
教室の中にいると泣き出しそうになってしまいます。耳を覆う声の渦はあんまりにも騒がしくて、雑多な街を歩けばその物々しさに過敏な私はびくりびくりと反応してしまうのです。
声は、嫌い――。
私は外的刺激に弱かったのかも知れません。あるいは心を閉ざして生きていたからこそ、単純に刺激に慣れていなかったのか――
………………いや。
いつだって付き纏う違和感を感じていました。私は彼女たちとは相容れない存在。特別なのではなく劣等、耳障りな声を耳にぶつけられるたび、それがどんなに好意的な台詞であっても私は不快になったのです。
けれどそんなのは人間としておかしいから、特に名前も知らない男子生徒に告白された時など私は自分自身に少しの幻滅を感じて、以降はよりいっそう演技し続けるようになりました。
仲間ですよー。
私はあなたたちの味方ですよー。
ちょっと地味だけどべつに普通の生徒ですよー
私ハ、正常デス、ヨー……。
そんな私にとって、修学旅行なんてイベントは恐怖しかありませんでした。大勢でどこかの見たことも無いホテルに敷き詰められて、はしゃぐクラスメイトたちとともにあちこちを歩きまわる。それはどんな地獄でしょうか。3日間もの間どんなに喧しい声の渦が私を悩ませるのか、私は考えただけで発狂しそうになってしまいました。
班決めだとか、ルート選びだとかもうまったく頭に入っていませんでした。ただただどうやってこの修学旅行を乗り切るのか、それだけで思考がフリーズしてしまっていたのです。
――――そんな私が、あの夜に美しい永久凍土に出会ったのです。
寒々しいほどの停滞風景――
眼を見張るような白の世界――
いままで死体のように生きてきた私にとって、それは生まれて初めての人間らしい感情でした。
真夜中に、地獄のような現世を抜けだして辿り着いた、秘密の楽土。完成しきった永遠――――ここに、ここだけに私の望むすべてが在ったのです。
私は涙まで流して雪に溺れました。その心地よい温度に身を浸し続けました。肌を焼くような冷たさ、呼吸するたび肺の奥に触れる冷気、次第に温度を失っていく体の感覚さえ心地よかったのです。
私は微笑みすら浮かべていたでしょう――ただただこの場所を離れたくなくて、私は朝までそうしていたのです。
――――――魂が震えるほどに、その白一色は美しすぎて。
永遠にここに居たいと願い続けていたら、
いつしか私は、この美しい雪原の一部になってしまっていたのでした。
/ 雪葬の呪い
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