その五 おたふく怖い

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その五 おたふく怖い

 播磨への道は長いが、歩くにつれて気持ちが軽くなる。  春の空は柔らかく晴れ渡り、畑の畦道を歩けば、どこからともなく桜の花びらが舞い散るのだった。  実はこの旅立ちは、姉さんには伝えていない。  秋山家の面々とは違い、姉さんならば、どうしてでも絶対に、わたしを引き留めようとしたはずである。  そもそも、わたしに件の縁談を持ちかけたのは、姉さんらしい。  表立っては、兄様を通して持ち込まれた縁談だが、裏で暗躍し縁談に持ち込んだのは、やっぱり姉さんなのだ。  「お通じ……通は、頑丈なのが取り柄でして、一晩中あんなこともこんなこと、どんなことでも耐え抜く根性がございます。見た目は小菊のようですが、ハエ取り草のような貪欲さを秘めております」  ええそれはもう凄いのでございます。    姉さんがどんなふうに、わたしの事を宣伝したのか、だいたい見当がついている。  本性は般若顔負けの化け物おたふくのくせに、人前ではつきたて餅のように、ほかほかふかふかと巧みに振舞うのだ。よく喋るが、その喋りは全て計算ずくだ。  その恐ろしさは、幼少期から頭を押さえつけられてきたわたしが、一番よく知っている。     
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