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「親爺様の仇を取りたいなら、良い家に嫁いで、旦那をめろめろにして毎晩毎晩、子種の最後の一滴まで搾り取って、早急に息子を生んだなら、乳をやりながら、おむつを替えながら、念仏のように恨み言を囁き続けて洗脳し、その上で旦那舅姑小姑全てを巧みに巻き込んで、ねちねち確実に外堀を埋めるように、しかも自分の手は絶対に汚さないで」
……おやんなさい、仇討ちとやらを。
鬼のような形相で姉さんはそう言い、ついでのように、分かったかい、お通じ、と怒鳴ったのだった。
お通じ。
そう呼ばれるから、この名前が嫌で仕方がない。
わたしは、秋山お通という。
母様は若死にして、この時点ですでにいない。親爺様があの悪臭野郎にやられて以来、全てがめちゃくちゃだ。名もない剣士にやられたということで、お上からお叱りを受けて、秋山家は大損害を受けた。ご先祖様から引き継がれてきたものは一夜にして台無しになった。
最悪である。
善良で優しい兄様は、白目を剥きそうな顔をして、この惨状を、ただ眺めているしかなかった。おろおろ、もたもたである。
何がどうなってこうなったのやら。
臭い自称剣豪がある日、俺と勝負しろと親爺様にしつこく言い寄ってきて、厠の中まで覗かれる勢いで、あんまりにもしつこくて、いい加減嫌になった親爺様が、じゃあ一回だけ相手をしてやると言って剣を抜いたのが運の尽きだった。
親爺様は結構な使い手で、藩の兵法指南役でもあったのに、あっけなくやられた。
自称剣豪は、決闘に勝ったという事実だけを握りしめ、トンズラした。
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